映画のミカタ

「のぼうの城」公開中

オノ・ナツメが装画を描いた小説版がなかなか面白そうで買おうかと迷っていたら

「映画化になる」と聞き、ならば観てからにしよう、と買うのをやめたら

撮影終了後、3.11の影響で映画の公開が先送りになり、

やっとこのたび観ることができて、どんな話かわかったのが、「のぼうの城」である。

 

映画化より小説化のほうが5年も早かったため順序が逆になったが、

そもそも和田竜による原作は、小説ではなく映画脚本として書かれたものなのだ。

 

しかも、結構なキャリアを持つ男の監督2人が

「W監督」として一緒に撮るというのだから、なかなかの稀具合だ。

コーエン兄弟とかウォシャウスキー兄妹とか、W監督の場合はふつう血縁者なのであって、

よっぽど2人が信頼しあってないと、絶対に無理なのである。

 

ケンカ別れせずにやり遂げて、仲良く頭に兜かぶって番宣している2人の姿を見るに、

ドラマ部門担当の犬童一心監督も、戦闘部門担当の樋口真嗣監督も

案外、器の大きい人なのではないかと思ったりする。

 

というのも、その昔、撮影途中で監督が降りちゃったために

頼まれて嫌々ながら引き継いで後半を撮った監督が、

札幌にキャンペーンに来てマスコミ陣を前に「こんなの撮りたくて撮ったわけじゃない」

と発言した場にいたことがあるからで。

じゃあ受けんな!受けたんなら最後まで責任果たせ!

と、心の中で思ったものである。人間、器量は大事なのである。

 

話が横道に逸れたが、「W監督」でしかもちゃんとした出来だったことが、私にとっては驚きだった。

ⓒ2011『のぼうの城』フィルムパートナーズ ※画像転載禁止

東宝、アスミックエース配給

札幌シネマフロンティア、ユナイテッド・シネマ札幌ほかで11月2日(金)より公開中

公式サイト=http://nobou-movie.jp/

 

戦国時代。天下統一目前の豊臣秀吉(市村正親)は、最後の敵、北条勢を攻めていた。

周囲を湖に囲まれた浮き城「忍城(おしじょう)」を落として力を誇示すべく、

わずかな兵力しか持たない城に、わざわざ石田三成(上地雄輔)率いる2万の軍勢を向かわせる。

 

城主の成田氏長(西村雅彦)は、従弟の長親(野村萬斎)に

「一戦も交えず城を明け渡せ」との指示を残し、早々に城を去った。

農民たちから「でくのぼう」を意味する「のぼう様」の愛称で呼ばれ慕われる長親は、

およそ武将らしくない男。しかし、意外にも長親は、開城を迫る三成軍の使者に向い

忍城のたった500人の軍勢で「戦いまする」と返答するのだった…。

観終えた感想として、萬斎以外にこの役はできなかったと思う。

小舟の上で敵方に向けて「田楽」を踊る、見せ場のシーンがあり、作曲も振付も、萬斎に任せたのだそうだ。

 

そりゃ他の誰も狂言や能の心得なんてないわけで、これは大正解だったと思う。

萬斎以外の役者が踊っていたらここまでの説得力は出なかった。やはり何事も「本物」に勝るものはない。

 

そのあたりも含め、この作品の裏テーマは、「餅は餅屋」なのかも知れない。

 

もうひとつの見せ場である戦のシーンは、北海道・苫小牧で撮影を行っていて

「水攻め」という戦術がいかなるものかが、見れば分かる。

 

惜しむらくは、私だったら、知将で鳴らす石田三成役に

上地雄輔はキャスティングしないかな。ま、好き好きだけど。

 

いずれにせよ、ただの時代劇ではなく、

のぼうの「人間味」がしっかり描かれてるところがとってもいいなあと思うのだ。

主題歌はエレカシ。2時間25分、飽きさせない。

「のぼうの城」

11月2日(金) 公開

2012年日本東宝、アスミックエース2時間25分

犬童一心×樋口真嗣監督

野村萬斎、佐藤浩市、成宮寛貴、上地雄輔、山田孝之、榮倉奈々ほか 出演

矢代真紀

WORD WORK  矢代真紀(やしろまき)

1968年、稚内生まれ、札幌在住の映画ライター。
編集プロダクション兼出版社に12年間勤務し、2001年に独立。
これまで23年間札幌の試写室に通い、作品紹介やインタビュー原稿を執筆。