映画のミカタ

「ゼロ・ダーク・サーティ」公開中

ずずずずん、と「腹にくる」映画である。

米軍特殊部隊によるビンラディン暗殺までの道のりを描く

「ゼロ・ダーク・サーティ」。

 

2時間38分、映像も観る側も、ほぼ張りつめっぱなし。

握ったこぶしに知らず知らず力が入りすぎ、手のひらにツメの跡がついた。

 

「9.11」から10年後の2011年、首謀者のビンラディン殺害が米国から発表された。

が、国家機密のミッション遂行であり、これまで詳細については語られずにきた。

CIAは、10年間、何をしていたか。どうやって居場所をつきとめたのか。

ミッションに携わった当事者に対する念入りな取材のもと、

「ハート・ロッカー」のキャスリン・ビグロー監督が完成させたのが本作である。

Jonathan Olley ⓒ2012 CTMG. All rights reserved. ※画像転載禁止

ギャガ配給 PG12指定

札幌シネマフロンティア、ユナイテッド・シネマ札幌ほかで公開中

公式サイト=http://zdt.gaga.ne.jp/

 

ヒロインのマヤ(ジェシカ・チャスティン)は、CIA情報分析官の若きエリート。

巨額の予算をつぎ込みながら、一向に手掛かりをつかめないビンラディン捜索の切り札として、

パキスタン支局の追跡チームに、20代半ばで送り込まれた。

容赦なく続く捕虜への尋問と拷問は、それを課す側であるチームリーダーの精神をも蝕む、過酷さだった。

そして人生すべてを捜査にささげるマヤの執念も、もはや狂気と紙一重のところまで来ていた…。

 

2009年にアカデミー作品賞と監督賞を受賞した「ハート・ロッカー」を観たときも

「これを、女性監督が撮ったのか」と思わされたものだが、

またしても、同じ感想である。なんと骨太な映像。なんという緊張感。

 

ひとことで言うと「容赦ない」描写である。

クライマックスは砂漠の暗闇で作戦が実行に移されるが、

暗くても「音」を有効に使うことで、「何が行われているか」がはっきりとわかる。

今年のアカデミー賞で「音響編集賞」を受賞した。

撮影賞は「ライフ・オブ・パイ」に持って行かれたが、こちらも相当いい。

 

ビンラディンを追い詰めた裏に、こんな実話があったとは。

ひとりの女性の生き方を軸に展開するサスペンス大作。

タイトルは午前0時30分を意味する軍の専門用語で、

ビンラディンの潜伏先にネイビーシールズが踏み込んだ時刻を指す。

 

キャスリン・ビグロー監督の手腕が間違いないレベルにあることを、世に知らしめる作品となった。

「ゼロ・ダーク・サーティ」

2月15日 公開

2013年アメリカギャガ2時間38分

キャスリン・ビグロー監督

ジェシカ・チャスティン、ジェイソン・クラーク、ジョエル・エドガートン 出演

矢代真紀

WORD WORK  矢代真紀(やしろまき)

1968年、稚内生まれ、札幌在住の映画ライター。
編集プロダクション兼出版社に12年間勤務し、2001年に独立。
これまで23年間札幌の試写室に通い、作品紹介やインタビュー原稿を執筆。