映画のミカタ

「ヘルタースケルター」

何かと話題先行な作品だが、そんなことはどうでもいい。

私個人にとっては、今年の邦画ベスト3入り確実な「ヘルタースケルター」。

スクリーンいっぱいに「極彩色の生命力」が描かれる。

先入観を持たず、この世界にどっぷり浸かってみてほしい。

 

監督が蜷川実花でなければこの映像にはなり得なかったし、

沢尻エリカ以外に、今「りりこ」になれる女優は、おそらくいない。

ⓒ2012映画『ヘルタースケルター』製作委員会 ※画像転載禁止 アスミック・エース配給 R15+指定

札幌シネマフロンティア、ユナイテッド・シネマ札幌ほかで7月14日(土)公開

公式サイト=http://hs-movie.com

 

圧倒的な容姿で芸能界のトップスターとして君臨するりりこ(沢尻)には、誰にも言えない秘密があった。

彼女は原形をほぼとどめない、全身整形のつくりものなのだ。

その後遺症が次第にりりこの身体を蝕みはじめ、結婚を狙っていた御曹司(窪塚洋介)には別の婚約者が現れる。

そして美しい後輩モデル、こずえ(水原希子)の登場。りりこは次第に精神のバランスを崩し、やがて…。

今年、ここまで観た邦画の公開作の中で、ベスト・キャスティング賞に値する。

寺島しのぶ演じるマネージャー羽田だけはやはり原作より年上な感じが否めないが、

事務所社長に桃井かおり、美容クリニック経営者の原田美枝子。

男優も、ゲイの専属メイクに新井浩文、りりこの彼氏役に窪塚洋介、

羽田の彼氏役が綾野剛、美容クリニックの犯罪を追う検事に大森南朋。

エリカの復帰作を支える、万全の布陣と言ってもいい。

 

蜷川監督はフォトグラファーとしての仕事の中で、旬の男優は、ほぼ撮りつくしているはずである。

幾千の被写体の中から自作のキャストを選んだとき、

そこに向井理や松田翔太は入って来ない、ってところに、センスを感じるんだよね。

 

もちろん岡崎京子の原作に惚れこんでの7年越しの取り組みであり、

キャラクターに合わせて役者を選んだのだとは思うが、それにしても、よくここまで揃えたなあ。

とくに窪塚は、出色の演技だった。本来の持ち味が生かされている。

綾野くんはNHKの朝ドラの後だったからか、少しルージーな雰囲気に欠けたかも。

本来はもう少しできると思う。

普通は脱ぐほうの女優が「ヨゴレ」と言われるのであるが、この作品の中では、ちょっと違う。

カリスマ的に描かれるりりこやこずえに対する照明の当て方と、

そうではない普通のヒトを演じる寺島しのぶや鈴木杏(検事を補佐する事務官)に対するライトでは、

扱いが全然違う。演出とはいえ、本作では寺島や鈴木のほうが、ある意味、汚れ役なのだ。

 

映画5年ぶりのブランクがありながらこれだけハードな演技を求められたエリカが、

撮り終えた後に精神のバランスを崩したとしても、私は驚かない。

そもそもが崩し気味のところに、りりこの壊れたキャラが重なるのだから、

恐らく、役と自分の境界すら危うかっただろう。

そういう意味では、今このタイミングでしか撮れなかった作品。

そして、16年も前に原作コミックを連載し、

すでに現代を予見していた岡崎京子の凄さを、改めて思い知らされる。

ヘルタースケルター

7月14日 公開

2012年日本アスミック・エース2時間7分

蜷川実花監督、岡崎京子原作

沢尻エリカ、大森南朋、窪塚洋介、桃井かおり、寺島しのぶ、綾野剛、水原希子ほか 出演

矢代真紀

WORD WORK  矢代真紀(やしろまき)

1968年、稚内生まれ、札幌在住の映画ライター。
編集プロダクション兼出版社に12年間勤務し、2001年に独立。
これまで23年間札幌の試写室に通い、作品紹介やインタビュー原稿を執筆。