「人生の特等席」公開中
2012.12.19
今年のクリスマスシーズンに映画を観たい、と思っている人で
アクションでもなく、ラブコメディって感じでもなく
ちょっと温かい気持ちになれるようなのがいい。
そう思うなら、これ。クリント・イーストウッド主演の「人生の特等席」。
あ、野球が好きな方には、間違いなくオススメ。
ガス(イーストウッド)は、メジャーリーグのベテランスカウトマン。
早くに妻を亡くし、1人で暮らしている。
この時代にパソコンもメールも使わず、データより自分の目と耳を信じて仕事を続けてきた。
そんな彼を、球団はクビにしようと考えている。
キャリア最後のスカウトの旅に出るガスだったが、肝心の視力が衰え始めていた。
そんな彼に手を貸したのは、ガスとの間にわだかまりを感じながら育ってきた
やり手弁護士の娘、ミッキー(エイミー・アダムス)だった。
不器用なガスとミッキーは、スカウトの旅を通して、初めて向き合うことになる…。
ⓒ 2012 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ※画像転載禁止
ワーナー・ブラザース映画配給
札幌シネマフロンティア、ユナイテッド・シネマ札幌ほかで11月23日(金)より公開中
公式サイト=http://wwws.warnerbros.co.jp/troublewiththecurve/synopsis.php
今回、監督はイーストウッド本人ではなく、弟子にあたるロバート・ロレンツ。
そのせいか、ドラマの描き出し方は、御大よりもさらりとしているように感じた。
久しぶりに役者に専念したイーストウッドは
自分の老いをそのまま投影し、それが生かせる役を演じている。
顔のシミも、深く刻まれた皺も、野球場のシートに座り続けてきた男[スカウトマン]にはプラスに働く。
82歳にして、主演。そして現役。またまだいける。
そんな役者が、果たしてハリウッドに何人いるだろうか。
それだけでもう、立派に価値のある人生である。
私も小さい頃から夢中になってプロ野球や高校野球を見てきたが
そのとき活躍していた選手は今、みなコーチや解説者になった。
今もドラフト会議は録画して見ているほどだから、
もし自分がスカウトマンの娘だったら、さぞや楽しかっただろうと思う。
きっと父親の職業が誇りで、憧れたに違いない。
でも、この作品の娘、ミッキーは、
旅から旅への父親とコミュニケーションが取れないまま大人になった。
不器用でぶっきらぼうな昔堅気の親父に、弁明という選択肢はなかったのだ。
ストーリー上、サプライズが盛り込まれた作品であるが
そのサプライズの「芽」に、最初から気づいた自分がいて、やはりこれはもう、
野球と映画の両方を長く見てきたからに尽きるなあと、客観的に思わされた。
人間、歳を重ねても、毎日をエキサイティングに生きていたい。そう思わせてくれる映画である。
「人生の特等席」
11月23日(金) 公開
2012年アメリカワーナー・ブラザース映画1時間51分
ロバート・ロレンツ監督
クリント・イーストウッド、エイミー・アダムス、ジャスティン・ティンバーレイク 出演
WORD WORK 矢代真紀(やしろまき)
1968年、稚内生まれ、札幌在住の映画ライター。
編集プロダクション兼出版社に12年間勤務し、2001年に独立。
これまで23年間札幌の試写室に通い、作品紹介やインタビュー原稿を執筆。