映画のミカタ

「人生の特等席」公開中

今年のクリスマスシーズンに映画を観たい、と思っている人で

アクションでもなく、ラブコメディって感じでもなく

ちょっと温かい気持ちになれるようなのがいい。

そう思うなら、これ。クリント・イーストウッド主演の「人生の特等席」。

あ、野球が好きな方には、間違いなくオススメ。

 

ガス(イーストウッド)は、メジャーリーグのベテランスカウトマン。

早くに妻を亡くし、1人で暮らしている。

この時代にパソコンもメールも使わず、データより自分の目と耳を信じて仕事を続けてきた。

そんな彼を、球団はクビにしようと考えている。

 

キャリア最後のスカウトの旅に出るガスだったが、肝心の視力が衰え始めていた。

そんな彼に手を貸したのは、ガスとの間にわだかまりを感じながら育ってきた

やり手弁護士の娘、ミッキー(エイミー・アダムス)だった。

 

不器用なガスとミッキーは、スカウトの旅を通して、初めて向き合うことになる…。

ⓒ 2012 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ※画像転載禁止

ワーナー・ブラザース映画配給

札幌シネマフロンティア、ユナイテッド・シネマ札幌ほかで11月23日(金)より公開中

公式サイト=http://wwws.warnerbros.co.jp/troublewiththecurve/synopsis.php

 

今回、監督はイーストウッド本人ではなく、弟子にあたるロバート・ロレンツ。

そのせいか、ドラマの描き出し方は、御大よりもさらりとしているように感じた。

 

久しぶりに役者に専念したイーストウッドは

自分の老いをそのまま投影し、それが生かせる役を演じている。

顔のシミも、深く刻まれた皺も、野球場のシートに座り続けてきた男[スカウトマン]にはプラスに働く。

82歳にして、主演。そして現役。またまだいける。

そんな役者が、果たしてハリウッドに何人いるだろうか。

それだけでもう、立派に価値のある人生である。

 

私も小さい頃から夢中になってプロ野球や高校野球を見てきたが

そのとき活躍していた選手は今、みなコーチや解説者になった。

今もドラフト会議は録画して見ているほどだから、

もし自分がスカウトマンの娘だったら、さぞや楽しかっただろうと思う。

きっと父親の職業が誇りで、憧れたに違いない。

 

でも、この作品の娘、ミッキーは、

旅から旅への父親とコミュニケーションが取れないまま大人になった。

不器用でぶっきらぼうな昔堅気の親父に、弁明という選択肢はなかったのだ。

 

ストーリー上、サプライズが盛り込まれた作品であるが

そのサプライズの「芽」に、最初から気づいた自分がいて、やはりこれはもう、

野球と映画の両方を長く見てきたからに尽きるなあと、客観的に思わされた。

 

人間、歳を重ねても、毎日をエキサイティングに生きていたい。そう思わせてくれる映画である。

「人生の特等席」

11月23日(金) 公開

2012年アメリカワーナー・ブラザース映画1時間51分

ロバート・ロレンツ監督

クリント・イーストウッド、エイミー・アダムス、ジャスティン・ティンバーレイク 出演

矢代真紀

WORD WORK  矢代真紀(やしろまき)

1968年、稚内生まれ、札幌在住の映画ライター。
編集プロダクション兼出版社に12年間勤務し、2001年に独立。
これまで23年間札幌の試写室に通い、作品紹介やインタビュー原稿を執筆。