「夢売るふたり」西川美和監督会見取材
2012.09.25
はい、やっとです、やっと。お待たせしました。
試写を拝見したのは2カ月も前だったのに、本当に申し訳ないです。
きちんと時間を取ってちゃんと書きたかったので、遅くなりました。
私個人の好きな邦画ランキング、
これまでの生涯BEST3に入る「ゆれる」(2006年)を撮った、西川美和監督の新作。
自分で脚本を書き、映画を撮り、さらに執筆した小説が三島由紀夫賞や直木賞候補になってしまう。
西川監督というのは、そんな素晴らしい才能に恵まれた人。
何年かにひとりしか出てこない、独自の作家性を兼ね備えた映画監督なのだ。
しかもまだ30代。すごいと思う。
彼女を発掘したのは是枝裕和監督であり、早くから、わかる人にはわかるんだな、と。
その師弟関係もまた、うらやましかったりする。
前作「ディア・ドクター」(2009年)も「ゆれる」も男を描いた人間ドラマだったが、
今回は夫婦。それと結婚詐欺にあう女たち。女という生き物の「タフさ」が、存分に描かれる。
(C)2012「夢売るふたり」製作委員会 ※画像転載禁止 R15+指定
アスミック エース配給
札幌シネマフロンティア、ユナイテッド・シネマ札幌ほかで9月8日(土)より公開中
公式サイト=yumeuru.asmik-ace.co.jp
東京の片隅で、小料理屋「いちざわ」を営む、貫也(阿部サダヲ)と里子(松たか子)。
息の合った夫婦で切り盛りする店は、小さいながらも繁盛していた。
しかし、ある晩調理場から炎が上がり、10年越しで手に入れた念願の店は、火災で一瞬にして焼け落ちてしまう。
悲嘆に暮れて次の職に就く気にもならない貫也は、
ある夜、不倫相手から手切れ金を渡され泥酔した店の常連客(鈴木砂羽)と
はずみで関係を持ち、里子の知るところとなる。
そして冷静に貫也に詰め寄る里子は、開店資金を貯める手段として
夫に女を騙して金を貢がせる方法を提案する。
松たか子、恐るべし。
初めてそう思ったのは、彼女の生の舞台を観た時だった。
それまではテレビドラマでしか知らず、
さして魅力的とも思っていなかったのだが、
いやー、すごいね。だてに松本幸四郎の娘には生まれていないのである。
これこそを真の実力派というのだろう。演技派じゃないよ。実力派。
テレビで見るお松は本物の7掛けくらい。
天海祐希もそのくらいテレビと生はギャップがあるんだけど、タイ張るね!
―――と、私は思っているのですが、
監督は実際に松さんを演出されてみていかがでしたか?
キャンペーンで来札された西川監督(写真)に、記者会見でそう訊いてみた。
監督 はい、、、松さんは、恐ろしい方だと思いました。というのも、
普段は気さくで正直で、まったく圧力やプレッシャーのない人なんです。
役についてもセリフについても、一切質問してこない方で。
それでいて本番の演技は抜群。
与えられた器によって形を変える「水」のような女優さんです。
本当にプロなんだなと感心する一方で、つかみ切れない怖さもありました。
……との答えでした。
こんだけ人間の「業」にこだわって、生き物的にいかに複雑怪奇かを、
ストーリーの中でえぐり出している才女の西川監督をして
「怖い」と言わしめるお松って、どうなの!
テレビドラマのお松は、実力の70%ってさっき書いたが、
この映画のお松は、ほとんど生に近い「凄み」がある。
いい線まで引き出せてると思う。
で、女優さんはほかにもたくさん出てるけど、
これは、お松を観る映画です。どうでもいいです、他の人。
ただひとつ、もしも私がこのストーリーを先に読んで、
キャスティングしたとすれば、夫役は阿部サダにはしない。
「ディア・ドクター」を観た後も同じことを考えたの、思い出した。
この役、鶴瓶と瑛太の顔合わせにはしなかったなあ、って。
阿部サダは生で観たことあるし、華のあるいい役者だと思うけど
もともと「笑い猫顔」なんだよね。だから「愁い」の表現が難しい。
でね、私だったら誰を夫役にしたかというと。
ずばり、大沢たかお。
少々色気がありすぎだけど、スクリーンから
「コメディ顔」のニュアンスが抜け落ちることで
まったく別の、ぎりっぎりのテイストに仕上がったんじゃないかな、
と思ったり。実に勝手な妄想キャスティングだけど。
これから映画館に行く方は、ちょっとそれも頭において
観てみて下さい。観方が変わるかもですが。
映画ファンは、当然、西川監督から目を離しちゃいけませんよ。観とくべし。
「夢売るふたり」公開中★西川美和監督会見取材
9月8日(土) 公開
2012年日本アスミック・エース2時間17分
西川美和 原案・脚本・監督
松たか子、阿部サダヲ、田中麗奈、木村多江、鈴木砂羽、伊勢谷友介ほか 出演
WORD WORK 矢代真紀(やしろまき)
1968年、稚内生まれ、札幌在住の映画ライター。
編集プロダクション兼出版社に12年間勤務し、2001年に独立。
これまで23年間札幌の試写室に通い、作品紹介やインタビュー原稿を執筆。