映画のミカタ

「砂漠でサーモン・フィッシング」公開中

もう少し邦題を工夫したら良かったのにな、と思うんである。

ユアン・マクレガーの主演作「砂漠でサーモン・フィッシング」。

原題が「イエメンで鮭釣りを」なので、たいして変わってないよね。
だってこれ、とってもいいラブストーリーなんだよ!

タイトルからは、そんなイメージわかないでしょ。勿体ない。
でも私がこれを「是が非でも観なければ!!」と思った理由は

監督が、名匠ラッセ・ハルストレムだからである。

ⓒ2011 Yemen Distributions Ltd., BBC and The British Film Institute. All Rights Reserved.

※画像転載禁止 ギャガ配給  札幌シネマフロンティアほかで12月8日より公開中

公式サイト=http://salmon.gaga.ne.jp/

 

英国で働く水産学者のジョーンズ博士(ユアン・マクレガー)のもとに、

ある日、荒唐無稽な依頼が持ち込まれた。

それは「砂漠の国イエメンに、鮭を泳がせて釣りをする」という

バカバカしいプロジェクトの顧問をしてほしい、というもの。

依頼人は、イエメンの大富豪シャイフ(アマール・ワケド)で、英国外務省の支持も得ていた。

が、常識では考えられない企画に、

窓口である投資コンサルタントのハリエット(エミリー・ブラント)に向けて

「実現不可能です」とのメールを返すジョーンズ。

 

だが、事態は急変する。中東情勢が悪化し、

首相広報担当官マクスウェル(クリスティン・スコット・トーマス)が 英国への批判をかわすため、

明るい話題作りの国家プロジェクトに 「イエメンで鮭釣り」を選んだのだ。

ジョーンズは、上司にハリエットに会うよう命令され、 このプロジェクトに参加しないならクビだと脅される。

給料が倍にするという約束でしぶしぶ引き受けたジョーンズだが、 この前代未聞の事業に取り組むうち、

つまらなかった日常が輝きを放ちはじめるのだった…。

頭の中は学問と唯一の趣味の釣りだけ。

妻との仲は冷え切っているサエない男が 充実した人生を取り戻す、ヒューマンドラマ。

そして、仕事を通して培われた信頼感が愛情へと発展するラブストーリーであり、

同時に、寓話的な要素を兼ね備えたコメディーでもある。
こんなふうに楽しくて、温かくて、ホロリとさせる物語には なかなか出合えない。

しかも話のスケールは壮大。66歳のハルストレム監督が

「この物語は私の感受性に合っていた」と話すのも納得の、面白さなのだ。
ハルストレム監督の出世作と言えば「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」(1985年)。

続いて、まだ無名だったディカプリオと、若き日のジョニー・デップが

兄弟役で共演した 「ギルバート・グレイプ」(93年 必見です!!)で名をあげる。

「サイダーハウス・ルール」(99年)、「ショコラ」(00年)をはじめヒット作は数多く、

寓話的な物語を撮らせると ティム・バートンとはまた違った意味で、非常に優れた世界観をつくり上げる。
そして、登場人物に対する監督の視点はいつも優しく、 登場人物を包みこむような温かさが持ち味だ。

私の好きな監督のひとりである。

 

毎日を必死で生きるうち、見過ごしがちな「きっかけ」に気づくことで

これまでと違った角度から、物ごとを考えられるようになるかも知れない。

そのとき自分の人生は、まったく別の姿を見せ始めるのだ。

 

そしていくつになろうとも、その可能性は無限大。

「夢を持つことに、遅いか早いかは関係ないんだよ」と、この映画は語りかける。

「砂漠でサーモン・フィッシング」公開中

12月8日 公開

2012年イギリスギャガ1時間48分

ラッセ・ハルストレム

ユアン・マクレガー、エミリー・ブラント、クリスティン・スコット・トーマスほか 出演

矢代真紀

WORD WORK  矢代真紀(やしろまき)

1968年、稚内生まれ、札幌在住の映画ライター。
編集プロダクション兼出版社に12年間勤務し、2001年に独立。
これまで23年間札幌の試写室に通い、作品紹介やインタビュー原稿を執筆。