映画のミカタ

「苦役列車」

芥川賞受賞時、その風貌から美女と野獣の「野獣」に例えられた

西村賢太の原作を映画化した「苦役列車」。

ほぼ私小説と言われる作品の主演が森山未來と聞き、

あのセンの細い体でどんな風に肉体労働者を演じるのか、興味を持って観た。

ⓒ2012「苦役列車」製作委員会 ※画像転載禁止

東映配給 7月14日(土)より札幌シネマフロンティアほかで公開中

公式サイト=http://www.kueki.jp/

舞台は1986年。19歳の北町寛多(森山)は、その日暮らしで生きていた。友ナシ、金ナシ、女ナシ。

日雇い労働で稼いだ金は酒と風俗通いで消え、家賃の滞納がかさんで追い出される寸前だ。

そんな貫多が、ある日職場で新入りの日下部正二(高良健吾)と知り合う。

寛多は、かねてから想いを寄せる桜井康子(前田敦子)のことを正二に打ち明け、

康子が勤める古本屋に連れて行くが…。

 

原作は読まずに観たが、岡田将生を世に送りだした「天然コケッコー」や

妻夫木くん×松ケンの「マイ・バック・ページ」を手掛けた山下敦弘監督が撮る、

と聞いた時点で「監督とテーマの相性はいいだろな」と思っていた。

1980年代後半の空気感を描きだすために、わざわざデジタルではなくフィルムで撮影し、

データに取り込んでデジタルに仕上げる手法を取ったという。

 

観終えた感触で言うと、世界観的にはその2作の前に撮った「松ヶ根乱射事件」に近い。

狭い世界で、狭い視野で生きることを、

自分でもいいとは思っていないのに延々続けている主人公の物語だ。

思うに、 5歳からダンスを始め、舞台でもキレのある踊りを披露している森山が、

外見を一文字で書くと「鈍」の西村=貫多を演じるって、大変だよね。

しかし、役者バカ森山はやってみせるのである。

 

期間中はずっと風呂なしの安宿に泊まり、毎日コップ酒を常備し、

貫太のように現場の文庫本を持ち歩いて読み。

さらにはわざと爪を切らずに伸ばし、風呂の回数を減らして脂切った感じを出したという。

その効果は抜群で、確かに「粗野」に見えるのだ。なかなかいないよ、こんな27歳。根性あるわ。

正二役の高良健吾も相当頑張っていたのだろうが、

真面目な専門学校生の役とはいえ、連日、肉体労働のバイトにくる役にしては、

やはり顔立ちが「きれいすぎる」のである。

いや、でも彼は「蛇にピアス」のような狂気ワイルドな演技ができるのだから、

今回は貫太とのバランス的に、あえての演出だったのかもしれない。

高良は森山の3歳下で、ともに20代男優の核を担う。

将来、大河ドラマの主役を演じても、何ら不思議のない2人である。

苦役列車

7月14日 公開

2012年日本東映1時間52分

山下敦弘監督、西村賢太原作

森山未來、高良健吾、前田敦子、マキタスポーツ、田口トモロヲほか 出演

矢代真紀

WORD WORK  矢代真紀(やしろまき)

1968年、稚内生まれ、札幌在住の映画ライター。
編集プロダクション兼出版社に12年間勤務し、2001年に独立。
これまで23年間札幌の試写室に通い、作品紹介やインタビュー原稿を執筆。