映画のミカタ

「闇金ウシジマくん」

基本、無表情。基本、まばたきナシ。そんな山田孝之の圧倒的な役づくりが

深夜ドラマからの映画化を生んだのではないかと思う「闇金ウシジマくん」。

 

このシリーズ中で、ふとしたきっかけで簡単にカネと欲に溺れ、

自分を見失って借金地獄へと転がり落ちてゆく債務者たちを見ると、

つくづく人間って弱いよな、と思ってしまう。

きっと自分のすぐ近くにもある話だなこれ、というリアリティが

「ウシジマくん」の世界観にはあるのだ。

©真鍋昌平・小学館/映画「闇金ウシジマくん」製作委員会 ©真鍋昌平/小学館

S・D・P配給 PG12指定 ※画像転載禁止

札幌シネマフロンティア、ユナイテッド・シネマ札幌ほかで8月25日(土)より公開中。

公式サイト=http://ymkn-ushijima-movie.com/

 

10日で5割の法外な利息で金を貸し付ける、闇金業者「カウカウファイナンス」。

社長の丑嶋馨(山田)は、常に冷静沈着。

冷徹非情な取り立てで、債務者を借金地獄に追い込んできた。

母親のパチンコによる借金を肩代わりさせられている未來(ミコ=大島優子)は、

友達の勧めで、割のいい「出会いカフェ」でのアルバイトを始めた。

 

一方、携帯3台分、アドレス3000件を超えるネットワークで

イベントサークル「バンプス」を急速に伸ばしてきた代表の小川純(林遣都)は、

若きセレブへの野心を抱く、未來の幼なじみ。

2000人の大イベントを前に会場費の前払いを要求され、

すぐにまとまった金が必要になった純は、ウシジマの闇金に手を染めるが…。

実は、今の日本人俳優で一番、ジョニー・デップに似ているのが

山田孝之ではないかと、ずっと思っていた。

どんなに笑っても底抜けに明るい感じがしない、目の奥の暗さ。

 

デビューした頃から内面表現の必要な役をオファーされることが多く、

TVドラマ版の「セカチュウ」と「タイヨウノウタ」では

どちらも「難病の彼女を持つ」彼氏役。

「白夜行」では幼いころに罪を犯し、息をひそめるように生きる役。

そして映画「手紙」では「殺人犯の兄を持つ弟」という具合だった。

山田孝之がいくらできる子だからって、どうなの。

こんな役ばっかりじゃなく、もっといろんな役をやらせるべきだ!

と、当時連載していたコラムに書いた覚えがある。

 

20代後半になって、三池監督の「クローズZERO」や「十三人の刺客」で新境地。

30歳手前にした今なお“演技派”の枕詞に恥じない演技を披露していると思う。

それは真剣に「役づくり」に挑んでいるということであり、「ニーズがある」ということなのだ。

 

今回の何事にも動じない丑嶋役を演じるにあたっては、

無表情であることに加え、徹底して「汗をかかない」役づくりで怖さを演出しているという。

映画の撮影は、猛暑の7月中旬から1カ月間。

現場ではひたすら「体を冷やす」山田の姿があったそうだ。

 

同世代の小栗旬や瑛太らに比べ、

すらっとした体型や華やかなルックスでは多少後塵を拝するが、

スクリーンに映った時の「存在感勝負」であれば、山田はおそらく、世代トップクラス。

あまり器用な性格には見えないが、 実は「主でも脇でもできる」強みも持ち合わせている。

「闇金ウシジマくん」

8月25日(土) 公開

2012年日本S・D・P2時間12分

山口雅俊監督・脚本

山田孝之、大島優子、林遣都、新井浩文、やべきょうすけほか 出演

矢代真紀

WORD WORK  矢代真紀(やしろまき)

1968年、稚内生まれ、札幌在住の映画ライター。
編集プロダクション兼出版社に12年間勤務し、2001年に独立。
これまで23年間札幌の試写室に通い、作品紹介やインタビュー原稿を執筆。