映画のミカタ

「The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛」

ノーベル平和賞を受賞した女性であることと、その名前だけはぼんやり聞いたことあっても

じつは彼女のすごさについて、何も知らなかったのだな。

と、改めて気づかされた映画「The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛」。

 

映画の数だけ人生があり、映画の数だけ何かを学ぶ機会がある。心から、そう思う。

Photo Magali Bragard

(c)2011 EuropaCorp – Left Bank Pictures – France 2 Cinéma

※画像転載禁止 角川映画配給 PG12指定

札幌シネマフロンティアほかで7月21日(土)より公開中

公式サイト=http://www.theladymovie.jp/

 

1988年、「ビルマ建国の父」アウンサン将軍の娘、アウンサンスーチー(ミシェル・ヨー)は、

研究者の夫マイケル・アリス(デヴィッド・シューリス)と2人の息子とともに

イギリスで幸せに暮らしていた。

ある日ビルマ(現ミャンマー)にいる母が病に倒れ、スーチーは単身、ビルマへ看病に向かう。

その病院で目にしたのは、軍事独裁政権の武力制圧により負傷し、

血まみれになって運ばれてくる民主主義運動の参加者たちだった。

 

やがて運動家たちがスーチーの帰国を聞きつけ、選挙への出馬を求めて訪ねてくる。

人々の熱意に心を決めたスーチーは、民主主義のリーダーとして活動を開始するが、

それを見た独裁者ネ・ウィン将軍は、彼女に凄まじい圧力をかけ始める…。

Photo Magali Bragard

(c) 2010 EuropaCorp – Left Bank Pictures – France 2 Cinéma

 

アウンサンスーチーの半生を描く物語ではあるが、映画の縦軸を成すのは、彼女と夫との深い絆だ。

互いを愛し、尊敬する夫婦の形が、激動の人生の中に綴られる。

 

映画は2時間13分なので、駆け足で描かれているけれど、

2010年11月にやっと解放されたスーチーが1989年から自宅軟禁されていた延べ期間は、相当に長い。

 

私は民主主義の国に生まれ、その中で育ってきた自分がいかに恵まれているかを

これまで深く考えずに過ごしてきたが、

映画に登場する独裁国家の暴力的な統治手段には、信じ難いものがある。

 

監督は「グレート・ブルー」「レオン」のリュック・ベッソン。

そもそもは主演のミシェル・ヨーが2007年にこの作品の脚本と出合い、

友人であるベッソンに「プロデューサーをしてもらえないか」と持ちかけた。

しかし、脚本を呼んだベッソンが「自分が撮りたい」と監督に名乗り出たという。

 

また、自ら「この女性を演じたい」と思い、

映画化に向け行動したミシェル・ヨーの並々ならぬ熱意は、その演技に表れている。

アウンサンスーチーもそうだが、ガンジー、マザーテレサなど

「伝記」になるような人物を演じるときに役者に必要なのは、

意志の強い瞳だけではなく、慈愛に満ちた表情ができるかどうかだと私は思う。

幾万もの民から慕われる人物は、間違いなく懐が深い。

 

その慈愛と哀しみの両方をたたえた表情を、スクリーンのヨーは確実に浮かべて見せるのだ。

日本の女優に、この演技ができる人は果たして何人いるだろうかと、観ながら考えてしまった。

「The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛」

7月21日 公開

2012年フランス角川映画2時間13分

リュック・ベッソン監督

ミシェル・ヨー、デヴィッド・シューリス、ジョナサン・ラゲットほか 出演

矢代真紀

WORD WORK  矢代真紀(やしろまき)

1968年、稚内生まれ、札幌在住の映画ライター。
編集プロダクション兼出版社に12年間勤務し、2001年に独立。
これまで23年間札幌の試写室に通い、作品紹介やインタビュー原稿を執筆。