さちさきインタビュー

見せて、作って、酔わせます。
原田光正ワールドへようこそ!

原田光正さん

COCKTAIL BAR HARADA(カクテルバーハラダ)

マジシャン/バーテンダー

原田光正(はらだみつまさ)さん

手にしていたトランプのカードが、彼のフィンガースナップの音を合図に別のカードに変わる。握っていた手を開くと覚えのないものがポンと飛び出す。もはやタネなど微塵にも感じさせない鮮やかなマジックを見せてくれるのは、「COCKTAIL BAR HARADA」の原田光正さん。マジシャンとバーテンダーというふたつの肩書きで、訪れる人を別世界へと誘ってくれます!

こんなに楽しいシゴトは他にありません!

やさしい笑顔の原田さん
やさしい笑顔の原田さん

――「COCKTAIL BAR HARADA」は、原田さんのお父様でバーテンダーの好位さんのお店でした。どういう経緯で一緒に働くことになったのですか。

原田さん(以下敬称略):25歳頃だったかな、外国から帰ってきて無職でいた時に、父の店がすすきのから今の場所に移転するタイミングで、「手伝ってくれ」と頼まれたんです。最初は1カ月くらい手伝って、あとは何か他の事をしようと思っていたんですけど、そのまま居着いて今に至ります。

――居着いた理由は。

原田:毎日いろいろな人と会って、いろいろな会話ができることですね。僕、ディベートとかおしゃべりとか大好きなんですよ。ここは地位とか年齢とか職業とか関係なしに、人間対人間として話ができる特殊な環境。夜という時間とお酒は心のガードを甘くしますから、“本心”が聞けたりして、本当に楽しいんです。接客をしている時が一番幸せで、こんなにいいシゴトは他にはないと、いつも喜びを噛み締めています。

――バーテンダーとしての仕事は、お父様から教えてもらったのですか。

原田:独学です。本を見て作って、初日からもう出していました。父は「それはさすがにダメ」ということだけ注意してくれるけれど、あとは「とにかく作って出せ」と言ってくれたので、どんどん経験させてもらいました。

――懐の深いお父様ですね。

原田:父のお客さんもよく、僕にカクテルを頼んでくれました。で、必ず「まずい!」って言うんですけど(笑)でもある時、僕が作ったカクテルを父が持って行ったら、「おいしい!」って言った事がありまして。どうも父が作ったと勘違いしていたようで、コノヤロー!って感じでしたね(笑)

好きなカクテルは「ブルームーン」
オリジナルカクテルは「のぼりべつ熊牧場」

カクテルの作り方はシェイキング、ビルド、ステア、ブレンドと4種あり、写真手前はシェイキングとステアの道具
カクテルの作り方はシェイキング、ビルド、ステア、ブレンドと4種あり、写真手前はシェイキングとステアの道具

――好きなカクテルはなんですか。

原田:好きなのは、ブルームーンですね。バイオレットリキュールとジンとレモンのカクテルです。シンプルだけど香りが強くて、甘く、セクシーなイメージのカクテルです。おいしいですし、実は最初に覚えたレシピなので思い出もあります。

――オリジナルカクテルは。

原田:あるにはあるんですけど・・・メニューには載せられない代物です。

――それはぜひ聞きたいです。

原田:そもそもですね、BARやまざきの山崎さんが、「白い恋人」というオリジナルカクテルを作っているのを見て、僕も真似して、何か北海道らしいものを作ってみようと思ったのが始まりなんです。
で、まずひとつ目に考えたのが、「のぼりべつ熊牧場」。クマをイメージした茶色の液体でですね、味が・・・とてもまずいです(笑)
もうひとつは「釧路湿原」。ドライベルモットベースのカクテルで飲みやすいんですけど、あの場所って野鳥がたくさんいますよね?なので、お客さんが飲む度に、バードコイルを鳴らして鳴き声を聞かせてあげるという(笑)

――笑! 個性派ですね。今度、注文させてください。

マジシャンもバーテンダーも
お客様を非日常の世界へと誘うシゴトです

見よ、この美しい並びを!技を!!マジックのレパートリーは1000以上あるという原田さんは、自宅でも暇さえあればカードを触っているそう
見よ、この美しい並びを!技を!!マジックのレパートリーは1000以上あるという原田さんは、自宅でも暇さえあればカードを触っているそう

――マジックの修行はどちらで。

原田:これまた独学です。始めたきっかけは覚えてないんですけど、17歳か18歳頃からやってまして、本腰を入れたのはバーテンダーになってから。ジャンルでいうと、クロスアップマジックというテーブルマジックです。カードやお札、タバコやコインなど日常にあるものを使います。

――技の数々には感動します。もう魔法としか思えません。相当、鍛錬なさったのでは。

原田:友達をなくすくらいには(笑)というのも、これ、マジシャンが通る孤独な道の話なんですけど、マジックって誰かに見せないと上達しないので、とにかく友達に披露するんですよ。でも不思議なことに、下手なうちは見てもらえても、腕が上がってくると見てもらえなくなるんです。著名なマジシャンもそう言っていたので、そういうものなんでしょうね。僕は夢中だから、上手くなりたいから見せるのだけど、友達には苦痛であったと。結果、会ってもらえなくなりました。

――プロの道は険しいですね。お客様はどういう反応をされる方が多いのですか。

原田:笑われる方が一番多いです。人は自分の理解を越えたものに出会った時、笑うしかないのかもしれません。

――私も毎度、驚き、そして爆笑しています。これを誰にでも無料で見せてくれるなんて、ものすごいサービスですね。

原田:“誰かのためのオーダー”もあるんですよ。例えば以前、「彼女に結婚指輪を渡すマジック」をお願いされました。事前にじっくり打ち合わせをして、当日は10個の箱を用意。相手の女性に好きな箱をひとつずつよけていってもらい、最後のひとつを開けると指輪が入っている、というサプライズです。

――わー、おもしろい!素敵です。

原田:あと部下の男性が、シゴトでとても落ち込んでいる女性上司をお連れして、「シゴトを忘れられるマジック」をお願いされたこともあります。マジックの最後に、「彼から頼まれたんです。心も頭もシゴトのことでいっぱいになっているから、気分転換をして欲しいと思ったようですよ」と伝えたら、涙を流されていました。

――いいお話ですね。確かにマジックを見ている時って、他の事を考えませんよね。すごく集中します。

原田:マジシャンもバーテンダーも、人を非日常の世界に誘うシゴトですから。

オーセンティックバーでまさかのマジック
そんなギャップも楽しんでください

――ステージでのショーはしないでのすか。

原田:ショーは華やかですし、テーブルマジックとは違う面白さがありますから、お話があればさせていただいています。でも、お客様とのおしゃべりができないのが残念。やはり、カクテルバーハラダあっての、というのが僕のスタイルですね。人を驚かせるのが好きなので、オーセンティックバーでマジック、というギャップも楽しんでいただきたいですね。

――シゴトのモットーは。

原田:お客様に気持ちよく帰っていただくことです。また来たいと思っていただける、接客や店作りを心がけています。

――具体的には。

原田:おいしいお酒を作るとかいろいろありますけど、まずは信頼関係が大事ですよね。軽薄であってはダメ。例えばお客様のお話を聞くときは、ポーズだけでなく、心から興味を持って聞いています。あと、抽象的ですが、肩の荷を下ろしてあげられるような接客をしたいといつも思っています。

――原田さんの人当たりは本当に柔和で、相手をまるで緊張させないですよね。我が強くないというか。それでいて、スッと違う世界に引き込んでくれるから不思議です。

シゴトは、誰かが喜んでくれてこそ
シゴトなのだと思います。

お客さんにマジックを見せている現場をパシャッ
お客さんにマジックを見せている現場をパシャッ

――好きな作業は接客とのことですが、一方で嫌いな作業はありますか。

原田:人のためにならないことですね。

――例えば。

原田:もう飲まない方がいいと思うお客様に、お酒を作るのが嫌なんですよ。かなり酔っているのに、周囲が強く薦めるケースってしばしばありますよね。そういう時は、「もうご無理なようですよ」などと止めるようなことを言っています。1杯1杯をおいしく飲んで欲しいですし、飲み方の管理もバーテンダーのシゴトだと思っているので。

――これからの夢はありますか。

原田:特にこれがしたいあれがしたいといった夢はないのですが、尊敬する父を見ていて思うのは、継続が大事だということ。なので、淡々と日常を積み重ねていきたいです。そいういう意味では、店を続けることが夢かな。

――では最後に、原田さんにとっての「シゴト」とは何かを聞かせてください。

原田:人を幸せしたり、貢献すること。シゴトをしていて、自分だけが幸せっていうのはなんか違いますよね。それは自己満足のような気がします。シゴトはやっぱり誰かが喜んでくれてこそ、シゴトなのだと思います。

――どうもありがとうございました!

COCKTAIL BAR HARADA

COCKTAIL BAR HARADA(カクテルバーハラダ)

札幌市中央区北1条西3丁目 古久根ビル中2階

TEL/011-241-5090

名前原田光正(はらだみつまさ)さん
年齢1977年生まれ
性格奇人
趣味葉巻、映画(1日1本観賞)、美食巡り
シゴトのモットーお客様に気持ちよく帰っていただくこと
好きな作業お客様との会話
嫌いな作業その人の為にならないこと
これからのこと尊敬している父のように、淡々と飄々と店を続けていきたい
シゴトとは人を幸せにすること、貢献できること

孫田二規子

OFFICE CATI  孫田二規子(まごたふみこ)

1972年、札幌生まれ、札幌在住のフリーライター。
道内をぐるぐるしながら、やわらかいものからかたいものまで、いろいろ書いています。