さちさき by 札幌のフリーライター 孫田二規子

ここ数年、音楽シーンを取り巻く環境はめまぐるしく変化している。インターネットの普及でいつでもどこでも世界中の音楽を楽しめるようになったし、メジャーシーンとインディーズシーンの境目も曖昧だ。そんな中で最も難しくなったと思われるのが「音楽活動を長く続けていくこと」だろう。

そんな状況の中で、今年結成12年目を迎えた札幌在住のバンドOLD。コンスタントにCDをリリースし、精力的にライブ活動を行う彼らに、ざっくばらんに話を聞いてみた。

今年は全国ツアーや品川のソロライブツアー、各イベントライブへの参加など、多彩なライブ活動が目立った彼ら。11月4日には、その集大成とも言えるワンマンライブ「美しく内側から包み込む～完全版～」が控えている。今回は休養中の杉村に代わり、サポートメンバーを迎え４人編成でライブを行うという。

「今年はギターの杉村が無期限休養に入ったこともあって、３人編成でのライブ多かったんです。そうすると何となくアコースティックスタイルが多くなっていて、気づいたらしっかりとしたバンドセットでのワンマンライブは約１年ぶりとなります。それだけにバンドスタイルでやるのが楽しみです」（大野）

「ツアータイトルの『美しく内側から包み込む」というのは、今年4月にリリースしたミニアルバムのタイトルでもあり、また聴いてくれる人たちの心を内側から包み込みこめるような音楽を届けたい、というOLDのコンセプトを表す言葉でもあるんです」（品川）

「この1年メンバーそれぞれがソロ活動やイベントライブなどでずいぶん度胸がついたと思うんです。その経験を生かしたい。またミニアルバムだけじゃなく新旧とりまぜた曲をやりたいので、それがどうなるのか、僕ら自身も楽しむぞという気持ちで挑みます。タイトル通り包容力のあるライブにしたいですね」（神田）

と、それぞれに意気込みを語ってくれた。

2006年から大手レーベルを離れ、自主レーベルでの活動を行っている彼ら。独立したことで何が変わったのだろうか。

「イベントやライブのお誘いなど声を掛けやすくなったと言われますね。独立してからは何でもアリなバンドになって、おもしろそうと思えば、どこにでも行くバンドになりました。今年は地元・琴似の神社のお祭りのライブに呼ばれたり、電気を一切使わないライブイベントに出たり、すごく自由にいろいろやらせてもらいました」（大野）

「誘ってくださる方も結構無茶ぶりしてくるんですけど、それもおもしろい。ライブハウスでやっているだけじゃ聴いてもらえないお客さんと出会えるのも大きいですね」（品川）

「琴似神社のお祭りでは、OLDのことを全く知らないおばあちゃんがライブ見てCD買ってってくれたりね（笑）」（神田）

活動範囲が広がったことで、より自由に、より柔軟に活動できたことが大きなメリットだと語る。

結成以来、地元・札幌を拠点に活動を続けているが、北海道に固執しているつもりはないという。

「東京は確かに最先端が集まっているけれど、その分タイム感が速くて情報が浅くて多い。もっと深いところでのインスピレーションは北海道に住んでいるからこそ得られると思う。東京でライブをすると、異国からやってきたような稀な雰囲気があると言われたりします。そういう北海道にしかないリズムやインスピレーションを失いたくない。人間として生きていて、楽しかったり幸せだったり、そういう感覚。自分を見失わないことが一番大切だと思う」（品川）

「東京に行くと、ものすごいスピードで情報を頭に叩き込まれるような感覚なんです。でも感動する物事にはスピードはないから、東京のスピードに合わせて活動しなくてもいいかなと思うんですよ」（神田）

「僕たちにとっては、札幌で活動しているのが当たり前のことで自然なんですよ。今はインディペンデントの環境が昔よりは整っていて、地方というデメリットはほとんどない。強いて言うなら、北海道にはOLDっていうバンドがいるぞ、ともっと全国の人たちにも知ってもらって、曲を聴いてくれたらいいなと思います」（大野）

OLDの音楽には、北海道の澄んだ空気を思わせる透明感がある。しかしその一方で、どこか厳しく暗い北国の冬のような陰を感じることもあり、時には春に一気に草花が芽吹くような暖かな広がりも見せる。北海道で生まれ育ち、そして今もそこで暮らす彼らの生きる日々が、サウンドに詩に、にじみ出ているのだろう。

今年1年の集大成であるワンマンライブ。「今OLDができることのすべてを表現したい」という彼らの音楽を、五感で感じたい。