映画のミカタ

「25年目の弦楽四重奏」公開中

その昔。っていうか、かなり前。

私がこの業界に入った頃、映画にまだ「2本立て」というシステムが残っていて

「シネコン」などという単語は生まれていなかった頃の話。

お金を払って観る映画といえば、一般的にはほぼ「洋画」を指していて

業務試写の数も、邦画より洋画のほうが圧倒的に多かった。

 

やがて、ジブリアニメの健闘に伴って少しずつ興行収入を上げる邦画が出始め、

いつしか、高視聴率を獲ったテレビドラマが必ず映画化されるご時世となり、

洋画の字幕スピードについていけない若者も増えて、今に至る。

子供向けアニメを含めると、ヒット作の数は「邦高洋低」な感が否めず、

25年前には、ほとんど予測のつかなかった時代になっている。

 

現在、世界同時公開の洋画大作などは、海賊版流出への対策として

東京プレミア1回しか日本での試写が行われないこともあるし、

逆にローバジェットのアート系作品になると、「宣伝費がかけられない」という理由で、地方での試写ができない。

そうなると北海道で宣伝を担当されている各代理店さんも、作品のDVD以外に宣伝ソフトがないのだ。

おまけに札幌は、190万都市でありながら、「非メジャー系作品」の集客が、とても弱い街。

どの宣伝担当者さんも苦労しているだろうと思う。

 

私自身、ここ数年で「試写の予定がないのでDVDでも良ければ」と言われる機会が増えた。

本作「25年目の弦楽四重奏」も、DVDを貸していただいて観た作品。

名優クリストファー・ウォーケン×フィリップ・シーモア・ホフマンというオスカー俳優2人の共演、

まさにツウ好みのキャスティングなのに、知らずに終わっちゃうのはもったいない!

ⓒA Late Quartet LLC 2012 ※画像転載禁止

角川書店配給 札幌シネマフロンティアで7月13日(土)より公開中 R15+指定

公式サイト=http://25years-gengaku.jp/

 

世界的に有名な弦楽四重奏団「フーガ」は結成25周年を迎えた。

記念すべき年の演奏会の曲目は、難曲『ベートーヴェン弦楽四重奏曲第14番』に決まった。

メンバーは第1ヴァイオリンのダニエル(マーク・イヴァニール)と

第2ヴァイオリンのロバート(ホフマン)、その妻であるヴィオラのジュリエット(キャサリン・キーナー)、

そしてチェロは最年長で父親的存在のピーター(ウォーケン)。

 

しかし突如として、4人に思わぬ事態が降りかかる。

ピーターがパーキンソン病を宣告され、今季限りの引退を表明したのだ。

結成から長らく”完璧な四角”を保ってきたカルテットのバランスが、それを機に少しずつ狂い始めて…。

写真は、チェリストに扮するウォーケン。今年70歳になる。渋いなあ。

若いころはギラギラしてたけど、こんなに優しくて繊細な役も演じるようになったんだね。

各楽器の演奏については、俳優1人につき2名ずつの指導者をつけて行ったそうで、

ちなみにホフマンを指導したのは、どちらも日本人の女性ヴァイオリニストだったという。

 

ロックバンドで言うベーシストや、弦楽のチェリストって、たぶん「背骨」的な存在なんだよね。

その音をみんなが頼り、ひとつにまとまる、みたいな。

どんな組織であれ、みんなが25年もたれかかっていた「支柱」が「抜ける」って言ったら、絶対、動揺すると思うんだよ。
この映画では、そこから巻き起こる人間ドラマが、

第7楽章まで”アタッカ”で、ぶっ通し途切れることなく演奏しなければならない

ベートーヴェンの難曲に重ね合わせて、展開する。

キャスト陣の演技の安定感は言わずもがなで、よくできた構成の1本だ。

 

クラシックがわからなくても大いに楽しめるし、精通している人なら、さらに深く理解できそう!

また、それぞれのキャラクターがはっきりしているので、

知らず知らず登場人物の誰かに感情移入しながら観てしまうかも。

 

いかんせん、映画館と我が家とでは音響が全く違うので、

楽器の音色に包まれながら観ると、クライマックスはさらに感動的だろうな、と思ったりする。

「25年目の弦楽四重奏」

7月13日 公開

2012年アメリカ角川書店1時間46分

ヤーロン・ジルバーマン監督・脚本・製作

クリストファー・ウォーケン、フィリップ・シーモア・ホフマン、キャサリン・ターナー、マーク・イヴァニールほか 出演

矢代真紀

WORD WORK  矢代真紀(やしろまき)

1968年、稚内生まれ、札幌在住の映画ライター。
編集プロダクション兼出版社に12年間勤務し、2001年に独立。
これまで23年間札幌の試写室に通い、作品紹介やインタビュー原稿を執筆。