さちさきインタビュー

「時間ない」「忙しい」に翻弄されてはダメ。
例え現実がついてこなくてもシゴトには心を込めて!

ベシャメルソースを仕込み中

La Puccia

シェフ

岡佳織さん

岡佳織さんは札幌市のイタリアンレストラン「sagra」の姉妹店、「La Puccia 」のシェフです。「面接で履歴書を返された」ところから始まったという、「sagra」との縁。「オーナーも私もすぐ辞めると思っていた」はずなのに、今では店を任されちゃっているのが面白い! 悩みを悩みと感じさせないほど前向きでパワフルな岡さんの、元気になる話をお届けします。

「明日からストウブできるよね?」
店を任されたのは、突然でした。

店はオープンキッチンです

――以前、ここ(La Puccia)に取材に来た時に聞いた、岡さんが「sagra」に就職する時の話が面白くて、また来てしまいました(笑)あの話を聞いて、岡さん自身にとても興味が湧いたんです。まずは改めて、「sagra」との出会いから聞かせてもらえますか。確かそれまでは、調理のシゴトの経験がほとんどなかったんですよね。

岡さん(以下、敬称略):はい、そうなんです。でもいろいろ覚えて、いずれは自分の店を持ちたくて、たまたま面接に行ったのが「sagra」でした。ところが村井さん(sagraのオーナーシェフ)がその時に欲しかったのは、即戦力になるうえ自分のところで長く働いてくれる人材。なので「お互いの目指している方向が違うね」ということで話はまとまらず、「次に使ってください」と履歴書を返されて帰って来たんです(笑)それが翌日に村井さんから電話があって、「どうしても人が足りないので、片付けだけでも手伝ってもらえませんか」と。これが始まりです。

――岡さんも村井さんも、「すぐに辞める」と思っていたんですよね。

岡:村井さんはよく「働きたいお店があったら遠慮しないで…。僕で知っているところがあれば紹介します」と言ってくれましたし、私は私で「パン屋かお菓子屋か和食がいい」と希望を伝えてみたり(笑)。調理に関しても、言われた事を手伝い、村井さんの料理を見て質問したり試食したりするのが楽しかった、という感じで、ガツガツと学びにいくということはなかったですね。

――なのに、その2年後には「La Puccia 」を任されてしまうなんて、よくあるサクセスストーリーとはちょっと違う感じでとても面白い展開です。

岡:ここも最初はプッチャ担当として来たんですけど、いろいろあって、オープンして2週間で全部担当することになったんです。「岡さん、明日からストウブ(火を使う料理全般)できるよね?」って。でも実はほとんどやったことがなかったんですよね(笑)オープン前に「万が一に備えて、パスタの練習だけはしてください」と言われてしてたくらいで。その万が一がまさか現実になるとは…。やっておいてよかったです。

――大らかに語っていただきましたが、当初はさぞや大変でしたよね…?

岡:「明日からどうしよう」って、みんな不安だったと思います(笑)私は…そうですね、初日は口から心臓出そうなくらい、緊張していましたよ。ランチはまだしも、夜は品数が多いし、もうてんてこまいでした。一ヶ月くらいは毎日調理場の裏で過呼吸みたくなってました。誰も信じてくれないんですけど(笑)

――辞めようとか思いませんでしたか。

岡:それが「sagra」に来てから一回もないんですよ、「休みたい」とか「辞めたい」とか。今までいろんな仕事をしてきて、その都度「あーめんどくさい」「休んじゃえ」的なことはあったんですけど、今はない。昔に比べて、断然、過酷な状況にいるんですけどね(笑)不思議なものです。

どんなにワタワタでも心を込めて
「ただ作ればいい」という姿勢はNG

こちらが店名にもなっている「プッチャ」。生地から手作りです

――5人のお子さんを育てながら仕事をしています。

岡:朝のうちに掃除や夕食の仕込みを終わらせつつ、休み時間に一回家に帰ったり…まあ楽ではないですよね。毎日、泣いたり、笑ったり、怒ったり、落ち込んだり。でもそうやってグズグズ言いながらも続けられているのは、家族や職場の人の支えがあるから。本当に有り難いです。

――シゴトと子育ての両立、心の底からすごいな~と思います!

岡:私「時間ない」「忙しい」という言葉は嫌いで言いたくないんですよ。なんだかネガティブで。そんなこと言葉に出して確認するより、「今できることをやらなくちゃ」という感じです。目の前のことを確実に遂げつつ、何か新しいことも得ていきたい。毎日を「忙しい」だけで終わりたくないですね。

――そのために、心がけていることはありますか。

岡:ただ作ればいい、盛り付ければいい、出せばいい、というような、「作業」にならないようにしています。これは、村井さんによく言われたことでもあるんですけど、ワタワタしていると「こなす」のが精一杯で、心を込めてる場合じゃなかったりするじゃないですか。でもそれではダメなんですよ。実際に皿がついてこなくても、盛り付けが多少変でも、気持ちはしっかりしていないと。

――よくわかります。

岡:それから営業中のちょっとした時間や夜寝る前に、今日自分のした事を振り返って、新しく気付いたことや、できるようになったことの確認もしています。客観的に見ると、成長が見えたりするんですよ。それを実感していくことは大切なような気がします。

――岡さんは前向きですし、タフネスです。その秘訣は。

岡:好きなことしてるからですかねぇ。でもちゃんと愚痴ったりしてるんですよ。どうも、周りにはそうは思われないようなんですけど。村井さんも私の愚痴に気付いていないのか、励ましてくれるでも何でもなく、「そうなんですね」って普通の相づちで返してきます(笑)

将来の夢は自分の店を持つこと

キッチンで面白カボチャを持って

――「sagra」「La Puccia」は、「北海道内の生産者の顔が見える料理」がコンセプトです。食材を吟味し、メニュー表に生産者の名前を入れるなど、そこのところは徹底していますよね。このような店に就職してよかったと思うことや、やりがいを聞かせてください。

岡:料理や食材ときっちり向き合えたおかげで、自分が本当にこのシゴトが好きだと気づけたことがよかったですね。この店だからこそできたことだと思うので、いい出会いに感謝しています。それとやりがいは、お客様に「おいしい」と言ってもらえることですね。これが何より嬉しい。この言葉の上にあぐらをかいてはいけませんけど。

――村井さんの尊敬しているところは。

岡:ひたむきさとバイタリティですね。「sagra」のHPに店のコンセプトが詳しく載っているんですけど、村井さんって、あれに書いてある通りなんですよ、毎日が。「私は生産者さんとお客さんの味覚を結ぶ橋渡し役である」「生産者を1件ずつ訪れて食材を目と舌で確かめている」「どうすればおいしい料理を作れるのか必死で考えている」…とかいろいろ書いてあること全部を毎日実践しているんです。全くぶれない、その意志や姿勢がすごいですね。料理に、シゴトに、とても厳しい人です。

――岡さんもそういうところがあるのではないですか。

岡:そうですね、私もシゴトには厳しい方です。前に村井さんに、「手を抜けないところ、とことんやりたいところが僕と似てる」と言われたこともあります。

――将来の夢は「自分の店を持ちたい」とのこと。どんなお店にしたいのですか。

岡:いま、どういう店がいいのか探しているところです。自分は何が得意でどんな店をやりたいのか、勉強しながら模索している感じですね。

――では最後に、岡さんにとってシゴトとは。

「しあわせの根っこ」です。シゴトを通していろんなことを吸収して、芽吹いて、伸びて、家族や仲間と一緒にたくさんの花を咲かせていくイメージです。

北海道地図には使っている食材の産地と生産者が記してあります

La Puccia

札幌市中央区北3条西2丁目8 さっけんビル1F

TEL/011・222・2515

名前岡佳織さん
年齢1970年生まれ
性格元気で明るい
趣味料理
シゴトのモットーまじめに一生懸命
好きな作業黙々と取り組める単調で細かい仕込み
嫌いな作業ほうきで掃くこと
これからのこと自分の店を持ちたい
シゴトとはしあわせの根っこ

孫田二規子

OFFICE CATI  孫田二規子(まごたふみこ)

1972年、札幌生まれ、札幌在住のフリーライター。
道内をぐるぐるしながら、やわらかいものからかたいものまで、いろいろ書いています。