映画のミカタ

「Monsters Club[モンスターズクラブ]」

俳優として成長著しい瑛太が、爆弾魔に扮する主演作「モンスターズクラブ」。

さらに、このあと公開される「ヘルタースケルター」で

「完全復活」を果たす窪塚洋介が、兄役で出演し、ふたりの初共演作品となった。

ⓒGEEK PICTURES ※画像転載禁止

ファントム・フィルム配給 札幌シアターキノで6月30日(土)より公開

公式サイト=http://monsters-club.jp/

 

人里離れた山奥で現代社会と隔絶し、たったひとりで生きている垣内良一(瑛太)。

獣を狩って食べ、読書し、眠る孤独な生活の中で

たったひとつ彼が見出した生きる意味は、

規制に縛られた日本の社会システムを壊すことだった。

その使命を果たすため、爆弾を自作してはあらゆる企業や政治機関に送りつけていた。

そしてついに最後の”偉業”を達成しようとしていた夜、

良一の前に、自殺したはずの兄ユキ(窪塚)が現れる…。

瑛太の俳優デビュー作「青い春」や「空中庭園」を手掛けた、豊田利晃監督・脚本の新作。

1970年代にアメリカを震撼させた爆弾魔、通称ユナボマーの犯行声明文を読んで

この作品を撮ることを決めたという。

 

ひと言でいえば、非常に詩的な作品である。

心象風景で構成される部分も多く、監督本人も、

一般向けのエンタテインメントを撮った意識はたぶんないはずだ。

 

足跡のない広大な雪原を俯瞰で撮影したシーンは、コーエン兄弟の「ファーゴ」を彷彿させる。

対比して描かれる爆弾魔の生活がいかに孤独なものであるか、を

セリフなしに一瞬で語る映像だ。

 

そして「孤独」をつきつめることによって

派生する現象や心情、幻覚を提示するにあたっては、

おそらく豊田監督の経験が大きく反映されているように思う。

 

豊田監督も、本作で鮮烈な印象を残す窪塚洋介も、

一度は、映画界からドロップアウトしかけた経験を持つ。

けれど、ともにこの世界を諦めずに戻ってきた。

瑛太もまた、若くして父親を亡くしている。

 

この作品は「孤独の意味」を知る3人のアンサンブルだ。

そして皆、そこから這い上がる手段を経験からすでに得ている。

金で買えない人生経験を、本人が心から望んだわけではないのに

手に入れてしまった3人なのだと思う。

 

十代の頃、将棋奨励会に所属していた豊田さんの作品には

むだが少ない。どの映像にもセリフにも意味があり

それが作品を完成させる上での「一手一手」なのだろう。

薄暗い山小屋の中を映し出す、照明のレベルも素晴らしい。

 

何より、窪塚洋介と豊田監督というふたつの才能が、

映画の一線に帰ってきたことが、嬉しくてならない。

待っていました。おかえりなさい。

「Monsters Club[モンスターズクラブ]」

6月30日(土)札幌公開 公開

2012年日本ファントム・フィルム1時間12分

豊田利晃 監督・脚本

瑛太、窪塚洋介、松田美由紀ほか 出演

矢代真紀

WORD WORK  矢代真紀(やしろまき)

1968年、稚内生まれ、札幌在住の映画ライター。
編集プロダクション兼出版社に12年間勤務し、2001年に独立。
これまで23年間札幌の試写室に通い、作品紹介やインタビュー原稿を執筆。